涙の理由わけは? (お侍 拍手お礼の四)
 



 
*注。いつにも増して、キュウゾウさんがちょっと変です。


秋の風は乾いた中を吹き過ぎるせいか、
埃を含んでなかなかに悪戯者であったりし。
水に恵まれた神無村でも、
稲穂を揺らす風が吹けば、それがそのまま、
家並みの連なる辺りへまでやって来て、
他愛ない悪戯をすることがある。

 「…つっ。」

詰め所の戸口から外へと出たその途端に、
横合いから来た不意な風に撒かれてしまい、
不覚にも目許へ何かが飛び込んで来た。
砂だろうか、だったら擦ってはダメだと、
痛みについつい歪んでしまう表情のまま、
今 出て来たばかりな戸を、手探りにて探しかかったその手を、

 “え?”

これまた横合いから掴み取られたシチロージ。
痛みにばかり気を取られ、
誰かがこうまで近づいてたこと、
さっぱり気がつかないでいたらしく。
とはいえ、
「…キュウゾウ殿、ですか?」
声さえかけずの行動派。
手の先が冷たかったのと、それから。
身長差の関係で、こちらの頬に柔らかい髪が当たったことから、
ああこれはと察しがつく辺り、
さすがは細かい観察力を持つ元・副官殿。ただ、
「…どうしたのだ。」
「はい?」
名前を訊いたのへの返事がなかったのはともかく、
妙に、そう、珍しくも口調が尖っていたのが意外で。
こっちからこそ“どうしましたか”と訊きたくなって。
しかもその上、重ねて訊かれたのが、

 「島田と…?」
 「はぃい?」

疑問を大いに含んだような声音で聞き返したものの、
ああそっかと、やっとのことで合点がいった。
たまたま通りかかった彼の目には、
詰め所の戸口前で、表情を歪めて目許を覆っていたシチロージが、
何か諍いでもあったそのまま、
中から出て来たばかりという様子に見えたに違いなく。
“あららぁ…。”
切迫した訊きようをしたのは、
勘違いながらも自分を案じてくれてのこと。
日頃、あんまり他者へは
関心を向けていないように見える彼だのにと思えば、
何だか物凄く特別扱いを受けているような気がしてしまい、
「いえ、何でもないんですよ。」
痛みをこらえて笑って見せたのが、どう解釈されたやら。

  ――― チキ…。

という、嬉しかないが耳に馴染みの、
不吉なばかりの覚えしかない、
鯉口を切る冷たい音が聞こえたのへと。
あわわと慌てて闇雲に伸ばした手が、空振りをしてなお焦る。
だが、向こうから最初に掴んで来ていた手の方を、
何とか逃がさず引き留めて。

「違いますっ、砂が眸に入っただけでっ。
 聞こえてますか? キュウゾウ殿っ?!」

おっさまでも次男坊でもどっちでもいいから、
とっとと洗ってもらって手当てなさい、おっかさま。
(苦笑)






  *わたしは一体、何を狙っているのだか。(笑)
   人慣れしてないキュウゾウさん、
   シチさんをお母さんみたいに慕ってくれると嬉しいですvv
   そんなシチさんに何かあったら、
   カンベエ様が相手でも“許さん”と怒ったりしたら、
   楽しいかしらと思ってしまいまして…。
(苦笑)

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